2014年 10月 26日
2014/10/26 黒子っちがいない―――。【or】
で、【or】があがる・・と思う。
ハロウィンまでには、せめてこれは出来るといいな(笑)
とりあえず、できたところまで投下しておきます~。
黒子っちがいない―――。【or】
【or】
意味:または。さもないと。 など
「残念ながら、オレも知らないのだよ」
淡々と緑間が、そう黄瀬に告げる。
桐皇を後にした黄瀬が、次に訪れたのは秀徳だ。
もう時間は遅く、正規の部活の時間外だが、緑間ならば、まだバスケの練習に励んでいるだろうと、訪れた。
その予想は当たり、緑間は、相も変わらず、淡々と3Pシュートの練習に励んでいた。
辺りには、ボールが散らかり放題に散らかっている。
「・・・そう・・っスか」
だが、縋るように尋ねた問いには、否定の言葉が返された。
最早、なけなしの希望が、更に消えいく。
もしかしたら、緑間ならば。
桃井が悪ふざけをするわけはないが、それでも何等かの事情により、そうせざるをえない事態に陥っていたのかも知れない。
(例えば黒子自身に頼まれたということならば納得できる。他の事には冷静な判断を下せる桃井だが、こと黒子に関しては認識が異なる)
だが、真面目一本の緑間ならば、例え黒子に頼まれたとしても、加担することだけはないだろう。
青峰は・・・まぁ、どっちに転がるか分からない点があると言わざるを得ない。
それが面白いか面白くないかでも転ぶかも知れないし、また理解が及ばないから転ぶと言う点もあるかも知れない。
だから、その点で、公平に正確に、一番に安心して意見を聞けるのは、緑間なのだ。
それがゆえに、ずん、と気落ちしている黄瀬に、
「だが」
そう言葉が続けられた。
相も変わらずに、綺麗な放物線を描くシュートを決めながら、淡々と。
まるで、普通の日常会話をしているかのように、非日常的な台詞を言い放つ。
「それは、平行世界というものなのかも知れないのだよ」
「・・・へ?」
「俗にいう、SFでのパラレルワールドの事なのだよ」
「・・・・・・・」
「モデル業の他にも、俳優業を始めたお前ならば、そういうドラマ内容も知っているのではないのか?」
「・・いや・・・そういうドラマは・・・あんまり・・・知らないっスけど・・・」
パラレルワールが世界観ドのドラマって、一体、どんなドラマっスか?!
心の中で突っ込みつつ、黄瀬は、なるほどと納得した。
(だからっスか。)
緑間とは反対側のゴールポストを視界の端に収める。
その視界には、紫色がちらついている。
しかも、それが・・・――――――私服たが、ちゃんと練習しているのだ。
「・・・だから、紫原っちが、真面目に練習しているんっスね・・・」
思わず、感嘆したように言葉を漏らしてしまう。
紫原は、基本的に、真面目には練習しない。
性格的に、負けるのは嫌いだから、練習はする。
だが、こんなに真面目には練習しない。
常にダルそうに、面倒くさそうに、練習する。
それが――――――・・。
「捻りつぶすよ、黄瀬ちん」
「いたたたっ。既に捻りつぶしながら言わないでほしいっスよ! 紫原っち!」
ぎりりと頭を片手で握り潰されて、痛みで視界が滲む。
先ほどまで、反対側のゴールにいた筈なのに、いつの間にか黄瀬の傍らに、ずおおと迫力満点に立っている。
トトロのような巨体と思えぬほどの素早さは、さすが言えよう。
ここが別の世界だとしても、身体能力は、黄瀬が知っている世界の紫原と何ら遜色がないのだ。
「ううん~? なんで泣いているの? 黄瀬ちん」
「紫原っちが、握り潰しているからっスよ!!」
「ふうぅ~ん?」
釈然としない顔で、紫原が黄瀬の顔を斜め上から覗き込んできた。
半眼の瞳が、なんとなく黄瀬に圧迫感を感じさせる。
根本的には何事にも関心がなく、性格的に緩いのに、心の奥底の真実を見透かされる気がする。
心の機微を冷静な判断で見透かす誰かとは別の意味で怖い相手である。
無垢ゆえの圧力。そして、無邪気ゆえの鋭さ。
まっさらな心は、鏡のように黄瀬の不安を映し出す。
黄瀬の心を切り裂いていく。
(そうか。ここは別の世界なのか。)
黄瀬の頭を握っている片手は、既に緩んで、ただ乗せられているだけになっているのに、それでも、ズキズキと痛みを感じさせていた。
そう、だから、これは頭痛によるものなのだ。
決して、視界がゆらゆらと滲んでいるのは、涙によるものなんかじゃない。
(――――――だから黒子っちはいないんスね・・・)
理解が心にも及ぶと同時に、切り裂かれた部分が熱を持つ。
ずきずきと、遅行性の毒のように、黄瀬の心にも痛みが広がっていく。
(いない。――――――会えない。)
黒子がいない。
どこにもいない。
この世界には。
この世界のどこを探しても。
なぜなら。
緑間の言葉を借りるならば。
――――――ここは平行世界だから。
黒子のいない世界だから。
そんなの・・・。
――――――そんなの。
(納得がいかないっス。)
ぎゅっと、唇を噛みしめ、俯く。
拳を握りしめ、これからどうするか。どうしたらいいのか考える。
黒子がいないのならば、こんな世界に用はない。
黒子がいる元の世界に戻りたい。
黒子がいないならば・・・。
くろこがいないならば・・・。
ク・・ロコがいないならば・・・。
「黄瀬!」
「黄瀬ちん?」
「え? ・・ぁ、なんスか?」
唐突に、鋭い声と緩い声に、深い思考から現実に引き戻される。
「なんだじゃない。しっかりしろ」
「大丈夫? 黄瀬ちん。なんか変だったよ?」
変?
変って何?
変って言うならば、もうこの世界そのものがおかしい。
――――――黒子っちがいない。
そう。それが一番に変な事だ。
そして。・・・それから。
・・・そういえば。
「そういえば、紫原っちは、どうしてここにいるんスか?」
ふと、二人を視界におさめて疑問が湧き上がる。
紫原は、秋田の陽泉に進学した筈だ。
緑間と秀徳にいる筈がない。
黄瀬が知っている世界ならば。
なのに、なぜにここにいる?
「えぇ~? 説明すんの、メンドー」
少し、何か考えたようだが、紫原は、次の瞬間には心底面倒くさそうに、一蹴した。
緑間は、少し眉根を潜めただけだ。
(こんなところも違うんスか・・・。)
黄瀬がいた世界との相違点。
同じように見えて、ちょっとの差があちこちに散らばっている。
それはたぶん、黒子がいない事に起因するのだろう。
黄瀬にとっての大きな相違点がそこだからだ。
逆に言えば、黒子さえいれば、黄瀬にとっては何の変わりもない。
何の変哲もない・・・愛しい世界の筈だった。