2006年 04月 14日
2006/04/14 散華5(5-1,5-2も纏めてup)
これまで、終わらなくて;分割していた5-1,5-2も一緒に纏めてあります。
散華5
「・・・・・・・・・・・・・・・っ!」
「ダメですっ」
踵を返し、艦橋から走り去ろうとするキラへと掛かる言葉がある。
咄嗟に止まってしまい、その事をキラは一生、後悔することになる。
その数瞬の間に、艦橋からの唯一の通路への扉は、それとなく封鎖された。
「ダメです・・・」
ゆっくりとした発音。
それは自分自身にすら、言い聞かせているかのようだ。
拳を震わせ、唇を噛み、それでも凛とした表情で、キラを見上げてくる。
「わたしたちには、やらなければならない事があります」
「・・・ラクス」
「まずは和平会談を成功させること」
「・・・ラクス」
「その為に戦ってきたのです」
「ラクス」
「何を犠牲にしても、何を失っても、貫かねばならない信念があります」
「--------ラクスっ!」
キラは、堪りかねたように声を上げた。
ひゅーひゅーっ、と喉を荒い息が通り過ぎていく。
今にも発作的に殴りかかってきそうな、そんなキラを前にしてラクスは。
「今のあなたが行っても何も出来ませんわ」
儚い笑み。
気丈に振る舞っているところで、震えが納まるわけではない。
涙が零れないわけではない。
「---------そして、わたくしも」
頬を伝うものとは裏腹に、そこには確固たる意志がある。
そして、それはキラにも言える事。
「戦う」と。
世界が混迷を極めようと、その為に戦うと。
デュランダル議長に宣言したのは他でもないキラ自身だ。
それからのキラは、冷静な指導者そのものであった。
ラクスと共に、和平会談を成功させる為に奔走し。
その傍ら、オーブ・プラント両軍より募った捜索隊を指揮する。
誰よりももどかしかった筈だ。
誰よりも先に。
誰よりもその場に。
駆けつけ、何も考えず、捜索していたかった筈だ。
だが。
それは立場が許さない。
信念が許しはしない。
信頼できる者らの捜索を信じて。
ただ希望に縋るしかない。
そうして-----------3ヵ月後。
何の進展も見せぬまま、アスラン・ザラの捜索は打ち切られた。
必死の捜索の甲斐もなく。
何の手がかりも見つかりはしなかった。
ただ。
ジャスティスの破片のみが回収された。
そこにコクピットがあったかすらも分からない。
ただの残骸。
ジャスティスを形成していたもの。慣れの果て。
それだけだ。
それこそ髪の毛一本すらも見つけ出せてはいない。
もしもキラがフリーダムで出ていたら。
-------------もしも。
あの時すぐにでも、キラが捜索に加わっていたとしたら。
もしかしたら、結果は違ったものになったかも知れない。
キラにしか分からない、フリーダムでしか分からない『絆』というもので見つけ出せたかも知れない。
それはあるかなきかの可能性。
だが、思うことは色々ある。
胸に巣食う葛藤は、止まる事を知らない。
捜索隊の、正式な打ち切りが会議で決まった時。
その時も、キラは一見、冷静であった。
「そう・・・」
ただ一言、そう発し、次の議題へと移る。
全ての議題が滞りなく進み、会議が終わりを告げる。
その時もキラは淡々としていた。
ゆっくりと立ち上がり、冷静な様子で、議会を後にするキラ。
誰もがその姿に痛みを感じ、誰もがその姿に安堵した。
誰もが乗り越えなくてはならない戦争の痛み。
冷静な指導者は、やはり冷静であったと。
昔の甘ったれな面影を知る者にとっては、淋しく思う反面、それこそ杞憂に終わったと胸を撫で下ろした。
それでも。
何かを感じ、心配したラクスが部屋へと訪れれば--------。
「キラ!!」
床に蹲るようにキラが昏倒していた。
ラクスは、駆け寄り、跪き、すぐさま容態を確認した。
もしかしたら昏倒した際に、頭を打った可能性も無きにしも非ず、頭を動かさないように、そっと額に手を当て、顔色・熱などを伺う。
その顔は青ざめていて、血の気が全く感じられなかった。
それなのに、人を呼び、ベッドへと移動させたその直後から、全身が火のように熱くなり、高温で魘され始める。
すぐさま治療がなされ、暫くすれば、それすらも落ち着いたと言うのに。
「キラ・・・」
心配する者らの必死に呼びかけにも関わらず。
キラは、そのまま意識が戻る気配も全くなく、昏々と眠り続けた。
-----------そうして。
一週間眠り続けたキラが目覚めた時。
もう一度、人数を絞っての内密の捜査を続行しましょう、と切り出したラクスに対し。
「え? アスランって?」
心底、不思議そうにキラは目を丸くした。
その様子は、皆を心配させまい為という演技ではなく。
また、アスランが行方不明という事実のみを忘れたというわけでもなく。
『アスラン・ザラ』という存在そのものが、キラの記憶から失われていた。
幼い頃、一緒に過ごした友人としての記憶もなく。
戦友として、一緒に戦った記憶すらもなく。
愛しい者として、過ごした時間すらなかった。
それはアスラン・ザラが生きていた意味を失ったものと同じ。
愛しんだ時間すらも失われ、過ごした記憶すらも失われていた。
------------『アスラン・ザラ』という存在そのものが、否定されていた。
by ak_yuma
| 2006-04-14 21:39
| DARK・SSあり